京都・四条河原町の老舗カフェ「フランソア喫茶室」様の家具を修理させていただきました。
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昭和9年(1935年)の創業以来、多くの文化人をはじめ京都の人々に愛され続けているフランソア喫茶室様。
今春のリニューアルオープンの際に、店内でご使用されている家具の修理を承りました。
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修理内容は、椅子/長椅子/スツールの張り替え×34脚、テーブルの塗り替え×21台、キャビネットの着色補修×1台。
どの家具も創業から現在に至る80年間で、何度か修理をしながら使い続けていらっしゃいます。
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椅子類は奥のスペースでご使用のものをすべて張り替え。
張り地は、以前ご使用のものと同じクラシカルな花柄の生地で。
座面中身のバネやウレタンの不具合も解消し、ふっくらとした座り心地が蘇りました。
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テーブルは古い塗装を剥がしてから明るいブラウンで再塗装しました。
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ちなみにこちらは塗り替え前。
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入り口側のスペースでご使用のテーブルは濃いブラウンに。
赤い座面の椅子は今後少しずつ張り替えられるご予定だそうです。
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左が塗り替え前、右が塗り替え後。
「こんなにもきれいに仕上げてくださり、さすが職人技ですね」と喜んでいただきました。
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フランソア喫茶室様は、創業者の立野正一氏や友人の画家・高木四郎氏、当時京都大学に留学中だったイタリア人建築家ら芸術家仲間が設計。
「店名は”フランソア”ですが、建築はイタリアンバロック様式なんですよ」といたずらっぽく教えてくださったのは、父である正一氏からお店を受け継がれた現オーナー今井香子様。
先日お邪魔した際に、いろいろなお話を伺いました。
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戦時色が深まり自由な言論が困難になっていく当時、喫茶室は思想や芸術を自由に語りあえる場として、多くの知識人や文化人たちが通っていたそう。
クラシック音楽が流れ、高木氏デザインのステンドグラスや数々の名画に囲まれた優雅な空間には、昭和初期の空気がそのまま流れ続けているかのようです。
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店名の”フランソア”の由来は、代表作「落穂拾い」でよく知られるフランスの画家ジャン=フランソワ・ミレーから。
農民の暮らしをリアリティをもって描くミレーの生き方に感銘を受け、立野氏が名付けたのだそう。
創業当初から変わらない紙のメニュー表に描かれているのは、京都在住の版画家・浅野竹二氏の絵。
店名にちなみ、フランスの農家の子どもをイメージした絵を描いていただいたそうです。
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今回のリニューアルに際し、50年ぶりに新しく貼り替えられた奥のスペースの壁紙。
50年前に立野氏がフランスで買ってきた壁紙とまったく同じものが、なんと今も同じ値段で販売されていたそうで、それをフランスから取り寄せたのだそうです。
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定番のホットコーヒーはフレッシュクリームがたっぷりと入ったウィンナータイプのコーヒー。
キッチンからはトーストを焼くバターの香りが漂い、コーヒーでひと休みする人、ケーキを楽しむ人など、常にお客様で賑わっていました。
あらゆるものがデジタル化されていく今の時代、ドアの向こうに広がる非日常の空間が、これからも変わらずあり続けてほしいと思います。
京都にお越しの際は、ぜひ「フランソア喫茶室」様で特別なひとときをお楽しみくださいね。
2022.10.28 公開